行くか!?

北へ向かって広がる藍色の空に、真っ黒な積雲がふたつ、ぼんやりと映っている。宵闇には巨大な倉庫が立ち並び、ナトリウム灯の橙色が、風に滲んでいる。真昼の暑気と、通り雨の湿り気で、シャツがべたりと肌に張り付いた。ryoの運転するcarryは、ガソリンを節約するから、エアコンが動かない。下ろした窓ガラスの上から左腕をはみ出しても、止まった空気が肌にまとわりつくだけ。そこに蛙の声が、ゲロゲロと這ってまわる。月のない空に視線をやっていると、手前の倉庫から出てきたトラックが、のそりと反対車線を通り過ぎていった。雲と同じ、真っ黒な煙がアスファルトの上に漂い、そこにcarryがぶつかっていく。湿気は排気の熱で生温かく、油のすすけた匂いが鼻腔にまとわりついて・・・重たそうに遠ざかるディーゼルのエンジン音が、それらに混ざって、ワタシの中の夏を呼び覚ます。継ぎ目で派手な音を上げては、錆びた鉄色のタラップを駆け上がる。すぐに、狭くて蒸し風呂のような空間へ落ちていき、壁際でエンジンを切る。ヘルメット越しにも重低音が鳴り響き、震える船体の中、よどんだ空気はすすけている。猛暑にあえぐ今年の夏、カラダに刻まれた記憶は、はなはだ正直だ。北の大地へ――大洗を出港するフェリーの薄暗い荷室が、カラダの内によみがえる。ひとつ足りないものがあるとすれば・・・それは、湿った風にのる潮の香り。ベタつく夜の港に、どこかワクワクしたのは、モトクロスを知るだいぶ前のこと。200DUKEが来る今夏――行くか!?、北海道。