見よ 月が後を追う

駅を背に、駐車場までの一本道は、南に開けている。夜につつまれた街の屋根が、仄明るく光って、アスファルトにうっすらと影を描く。そのずっと先に、白く丸く、月が浮かんでいる。南の空が、月を真ん中にして、ふくらんで見えた。

ここから家に向かうバス通りは、東へ続いている。さっきまで仰ぎ見ていた月は、運転席の側に移って、フロントガラスの隅に映り込んでいる。目の弱いワタシには、真ん丸の中に、黒い影がうごめいて見える。追っても追っても、月は東へ東へと逃げていく。

キャリーのハンドルをさばいているうちに、読みかけの単行本がふと頭に浮かんできた。確かタイトルは『見よ 月が後を追う』だったか・・・サイドテーブルの奥のほうにしまいこんでしまった話にも、月光が届いたようだ。バイクに乗っている主人公を、天空の月が追いかけているという、今の景色とは逆の物語だった気がする。秋の夜長に、物語を繋ぐのも悪くない。

帰ってからもう一度、満月を眺めに外に出る。ミロとシロが一緒だからロマンのかけらもないけど、夏の太陽と同じようなところにいて、煌々と輝く中秋の名月には魅せられる。次に満月で見られるのは、東京オリンピックの翌年というから・・・風呂上がりに、もう一度、眺めておこうか。