やばっ!

休み明けの月曜日。空調の吹かない車内に、時折開く扉から、乾いた風が入りこんでくる。暁を覚えないのは、なにも春の朝だけじゃない。座席の片隅、昨日福島で遇っていた陽射しと同じ透きとおった光に、かるく右肩を撫でられて、二日分の疲労が砂のようにざらりとカラダにひろがった。膝に載せた頒布バッグの上で文庫本が閉じて、瞳をつぶって・・・。

「次は北千住。地下鉄千代田線、JR常磐線つくばエキスプレス線はお乗り換えです・・・」。西新井を出てすぐ、車内アナウンスの声は残っていたのに・・・瞬く間に、その記憶を失った。ほのかに甘い感じのする温もりの中、ゆっくり目を開けると、正面の窓ガラスの中に見なれない土手が流れている。今どこに居て、何をしているのか・・・かるい脳震とうを起こしたように、何も思い出せないでいた。

見えているのは、荒川の土手。ちょうど堀切の辺りだろうか・・・。かすかな記憶を頼りに、ひとつひとつがアタマの中で言葉になっていく。「やばっ!・・・寝過ごした」、記憶がつながったのは、鐘ヶ淵の駅を過ぎている時だった。降りるべき北千住はとうに過ぎて、準急は次の停車駅「曳舟」に向かっている。心地良い目覚めと、焦り。ホントにヤバいと思ったのは・・・むしろ昨日の森の中だった。

<つづく>