粋で雅で

銀座線の終点、ホームの一番前から階段を上って、改札を抜ける。暗い照明に、時代が巻き戻ったような構えの立ち喰い屋が並び、その中のひとつ、蕎麦屋の焼き場からは香ばしい匂いが流れてくる。一瞬止まる足、奥に居た店主と目が合った。ここでつかまるわけにはいかない。バツの悪い笑顔だけを残してきびすを返し、階段を上り終えると地上に出た。

東武浅草の駅前。青信号の交差点をフラフラと自転車が走っていく。楽しげに奇声を張りあげては、横断歩道の上、行き交う人が遠巻きに避けて歩く。地元のよっぱらいオヤジは、気になんかしない。フラフラしたまま、道路の反対側を目指し、まだ何かに文句を言っている。宵闇を失くさない、ほど良い加減の灯りに、ゆるくやわらかな風が舞う。

振り返ると、見上げる松屋の正面が、その闇に白く浮かび上がった。ここに来るとなぜか癒されるのは・・・下町育ちだからか。634mの電波塔が立ち上がっても、駅名に業平の文字が消えてしまっても、空気までは変わらない。粋で雅な街は、いつまでもこのままでいてほしい。