日なたの匂い 4

左脚を軸にして、ゆっくり右脚をシートの反対側へ渡してやる。そのまま左脚でマシンとカラダを支え、右手でキックペダルを引っ張り出し、その短い金属の棒に右の足裏を当てて一気に踏み下ろす。左ヒザをひねらないと、うまくマシンにまたがれない。むしろ走っている時よりも緊張を強いられる瞬間だ。ヒザが新しい痛みに苦しむこともなく、チョークを引いた85ccは白煙を吐き出しながら高めのアイドリングを始めた。すぐにチョークノブを元の位置に戻して、バラついた排気音と煙をたなびかせながら、スターティンググリッドに向かい、パドックから離れていく。灰色の空に吹く風は少し冷たく、KXの奏でる排気音は、なかなかきれいな連続音にならない。スターティンググリッドの前で一度マシンを止めて、クラッチを握ったまま、右手を大きく前後に動かしてやる。エンジンが素直についてくるように繰り返しながら、コースに視線を泳がせていると・・・一足早く入った#43のCRF150RⅡが林の中から降りてきた。

<つづく>