バイク
シフトペダルを踏み込み、GROMでアスファルトを蹴り出す。原付二種のゆるい加速が、ほどよい加減で通りを駆ける。空は霞んで、陽射しの輪郭も、路に落ちる陰も、うっすらぼやけて続いてく。法定速度を超えようと流れていけば、襟元のわずかに露わな首筋に風…
少し時代遅れな、蛍光オレンジのフリースジャケットの上から、薄いGORE-TEXを羽織る。KUSHITANI製の赤いそれは、しばらくバイクに乗らなくなった知り合いから譲ってもらったもの。一緒に揃えたワタシのそれは、もう色がトンでしまっていて、引き替えに処分さ…
「あのバイク、なんて言うの」 「ん?どれ?」 「さっき、ぼくたちのこと追い抜いていったの」 「ああ、V-MAXかぁ」 「ぶいまっくす?」 「ヤマハの1200cc、軽トラの2台分だぞ」 「速いの?」 「速いさ!さっき、速かったろ?」 「SRVより速いの?」 「はは…
夕べの風が勢いを増して、乾いた田畑をすくい上げる。砂塵がアスファルトを横切り、前を走るワゴン車が、大きく左によろめいた。その風に巻き上げられるように、陽射しは高くから眩しく降り注ぎ、空に遮る雲はひとつも浮かばない。透明な冬の色が揺れている…
<2016/11/26の続き> 羊の群れが丘の上、のんびり草を食んでいる。アスファルトに跳び出さないよう、短く先を尖らせた石の柵がびっしり路肩にめぐらされ、その端で革のツナギを着たライダーがポリスマンと微笑み話している。ポリスマンの手にはスピードガン…
権田の三叉路から国道を少し走り、その県道は再び北に向かう。勾配をつけて上る先、最後にいくつもの180°ターンを越えれば、裾野に湖を抱く榛名富士が見えてくる。左に曲がれば裏榛名。しかし、草津へと下るのではなく、しばらく湖畔をたどる県道33号。やが…
職場が別れて、そろそろ20年。ワタシが公道から離れてもう、10年が過ぎた。それでも、こんなメールを読んでしまえば・・・やっぱり地図を広げてしまう。 表紙の端々がめくれあがり、すっかりヤレてしまったツーリングマップルを取り出して、「榛名山」を頼り…
群馬県安中市。横川の宿を抜けるとすぐに、国道18号線の旧道が碓氷峠へと吸い込まれていく。そのずっと手前、道が信越本線と並行に走る街中で望む、小高い丘にへばりついた亜鉛の精錬所が、いつも強く思い出される。そんな街に昔の同僚で、今もバイクに乗る…
ゆるいS字カーブをひらりひらり。ステアリングがトップブリッジの下から斜めに垂れ下がり、左右のステップが膝を窮屈にする。かすかに聞こえる排気音と合わせれば、懐かしい愛機RGV250に跨がっているワタシがそこに居る。バイクに乗る夢を見るなんて、ずいぶ…
いつもいつの時でも 前を向いていたい そう思いながら日々を重ねてきたつもりでも、たまには後ろを振り向く時だってあるさ。けして懐古趣味な自分じゃないけど、こんな表紙を魅せられちゃあレジに並ぶしかない。ある意味でナノハナのアピアランス。このコン…
「マン島」と聞いて思い浮かべるのは、泉優二の小説と、公道を疾駆する市販車レーサーの後姿だけだった。両輪をアスファルトから浮かしたマシンや、そのカウルにカラダをかがめるライダーが小さなフィルムに切り取られては、バイク雑誌に散りばめられていた…
エリック・ビューエルが仕立てたV-Twinは、よく回った。 アイドリングで佇むとき、車体ごと崩壊してしまうのではないかと心配するほどの振動は、走り出すとすぐに消えてなくなり、おおらかなはずのOHVは、レーシングスペックを余すことなく披露する。華奢で…
モトクロスを始める、ちょっと前のこと。hideさんとmuraと三人で、週末の峠を流すのを楽しみにしていた頃に一度だけ、その鼓動を味わったことがある。 ワタシのDucati M900Darkをきっかけに、hideさんはYZF-R6をmuraはGSF1200を手放して、それぞれレアなツイ…
「公道とモトクロスじゃあ、違うでしょーよー」 言葉の端に茨城訛りを残しながら、ざりままが大きな声で笑う。たしかにまったく違うのだけれど、公道の峠で覚えた感覚は今もなお芯に宿ったまま、ワタシのコーナーリングを組み立て続けている。黄色や白色で区…
バックウインドウの右隅に“RS-Z”のエンブレム。このアルファベットの並びに、遠い記憶がよみがえる。 東京都下、多摩丘陵に延びる京王沿線に住んでいた頃のこと。世は空前と言われるバイクブームの中にあって、ちょうどヤマハの2気筒が、消えかかった2ストロ…
たしか、そんなタイトルだったと記憶している。今からもう、30年以上も前の話。老いらくの記憶ほど当てにならないものもないけれど、そこに書かれた教えは、今もカラダの中に生き続けている・・・良くも悪くも。 バイクブームと呼ばれる、今はもう思い出す…
真っ白な煙とシンクロする、歪みのないサスティーン。耳障りなほど高い排気音は、薄くどこまでも細い。ヒステリックな高音を女性的と言う人はたくさん居るけど、むしろチカラのない鋭さに女性らしさを感じる。Γから降りた時、もう再び跨ることはないと思って…
待ちくたびれた太陽は、まだ控えめにアスファルトを照らす。「晴天」と言い切るには雲が散らばりすぎていて、空の青も白くかすんで見える。それでもGROMは、黄色いタンクシュラウドを眩しく光らせて、ウエットパッチが残るアスファルトを静かに駆けていく。1…
ワタシには、この色でしかない。 ずっと昔、まだkeiと出会うずっと昔に、ずいぶんいろんなことがあった。そうした蒼い時を、ともに過ごした黒い車体。何もかも、今ワタシの中にある造詣のほとんどすべては、みんなこの2ストロークに教えてもらった。感傷に…
ryoの愛機CRF150RⅡの横で、ガレージには大きな穴が空いたままだ。それでも明日は8月19日、8と1と9で「バイクの日」。バイク乗りが、ちょっぴり気持ちよくなる一日だ、明日になれば・・・この穴もきっと誰かが埋めてくれる。
A world without HEROS is like a world without SUN こうして眺めていると、ふとそんなフレーズが口をついて出てくる。いつになったら太陽が戻るのか、ここに太陽は戻ってくるのか。しばし空虚な空間に、ココロ揺れる日々が過ぎていく。
長い休みがかえってマシンを遠ざける。 先月のレースで焼き付けたクラッチが板交換されて、静かに出番を待つCRF150RⅡ。その隣には、お店のina-chanに無理を言ってブレーキフルードだけ、無償で交換してもらった85SX。DUKEの前後のタイヤには空気が充填され、…
暦に2つ、赤い丸を付けてみた。 これで、このまま何も起こらなければ・・・10日の長い休みがやってくる。ツーリング三昧の昔なら、真っ先に西に向かって、荷造りを始めたかもしれない。それも今では懐かしくも、ただうらやましく思い返すだけ。目の前の世…
理由なんてないさ。つい、そんな強がりを吐いてしまいそうになる。 それでも「再び」ではなく「ずっと」はまっているのには、きっと理由がある。この雑誌をめくれば、その答えが覗けるだろうか。カタナの意匠と強気なタイトルに惹かれて思わず手にしたGoods …
カラダが落ち込む日々。彼がワタシを内から強くする・・・。
空冷2気筒2バルブ。レイアウトがL型とくれば、イタリアンしかない。それもRosso、赤に限る。リヤカウルにシングルシートを奢る潔さとカラカラと騒がしい乾式のクラッチ。バルブスプリングすら持ち合わせないエンジンと、走ることに不要なものが一切省かれた…
快晴、微風。 桜を思わせるやわらかな風に誘われるまま、DUKEのシートにまたがり、馴染んだアスファルトをジグザグにつないで走り出す。いつもの日曜日よりも流れる国道から分かれて、冬枯れした渡良瀬の河川敷をさかのぼり、初詣と買い物客でにぎわう佐野の…
歩行者用の信号が点滅を始めたのに合わせて、クラッチレバーを握りしめ、Dukeのスロットルを全閉にする。そのままブレーキペダルだけで減速を終わらせて、太い停止線の手前にフロントタイヤを止める。昨日の快晴と打って変わって、まだらに広がっていた雲の…
<9/19の続き> 軽い車体のせいか、それとも右足をはずしたからか。いつもよりオーバーステア気味で、コーナーに入ろうとするGROM。でも、蛇角がついたわけじゃない。たとえるなら、サイドスタンドを軸にしてその場で車体が回転するような、そんなタイヤが浮…
<9/17の続き> カジュアルブーツのゴム底が、アスファルトに軽く当たる。荒れた路面に引っかかりながら、弾むようにして流される右足が、GROMのステアリングを薄く右に引きずっていく。浅い角度で黄線を越えていったところで、右足をステップの上に戻し、左…