2017-01-01から1年間の記事一覧
<10/7の続き> 午前九時 初めて終点まで走る東北縦貫は、岩手から青森に入るものとばかり思っていた。それが十和田湖の南を西に秋田へ入り、そこから青森に迂回しながら抜けていく。安代で分け入った道は、やがて山を越えて蛇行を繰り返す。ほどなくやって…
タクシードライバーが教えてくれた割烹の店は、駅前の華やかなネオンから少し離れて、古い寺の陰にやわらかな色を漂わせていた。表通りからはまったく見えない、言われたとおり「ちょっとわかりにくいところ」にあったけれど、近づく暖簾をくぐる前から笑い…
午前六時 朝もやが白く掃かれて、遠くにガスステーションの暖色が霞んでいる。何処にいるのか、はっきりするまでずいぶん時間がかかってから、鼻を鳴らずネロに手を伸ばした。夜が明けても体は重たいまま、シートに崩した上半身を捻るだけでまた、瞼が閉じて…
午前四時 郡山の出口が、いくつもの妖しいヒカリに彩られている。高速のインターに乱立するのは、男にとって都合のいい理由があると、どこかで聞いたことがある。事の真偽は別にしても、そのきらめきは確かに色情を煽る。ただ、問題はその後。酔ったあげくの…
<9/24の続き> 午前二時。 信号待ちの右手から、小さなテールランプが二つ、いきなり翻った。Vツインの低音が黒いアスファルトに弾けながら、大きく弧を描いて、闇に溶けるように一気に離れていく。真夜中に単車と戯れる背中をただ見送り、青色のシグナルに…
日曜日の午前零時。 北に延びる真っ黒な幹線国道が、赤いテールランプをまばらに泳がせている。RM85LとCRF150RⅡに占拠された荷室が、時折、真後ろから迫るヘッドライトに浮かび上がっては、すぐにまた漆黒の闇へと戻っていく。眠気覚ましに鳴らすカラオケの…
杏色に染まりゆく西の空へと、湿り気をまとい風が流れていく。禿げた田圃のあちらこちらから細く煙が立ちのぼり、籾殻を焦がした臭いが漂い辺りに立ちこめる。半端な陽射しは昨日の雨を乾かす間もなく、途中で行ってしまい、代わりに夜気が東から、重たそう…
「何か、さみしいね」 洗面台にかがんだワタシの背中を、二つの腕が優しく包んでいく。 明かり取りに東に開いた小さな窓が、鈍色に小さくにじんでいる。八月、ついに姿を見せなかった青い空は、九月になっても雲の上に隠れたまま。陽の光跡は低くなっていっ…
<8/30の続き> 冷房の利いた部屋に「大」の字に寝ころんで、天井の灯りを見ながらまた、カノジョのことだけを思い出していた。「満美」、美しさが満ちると書いて「まみ」。ただ、仲間はみんな、親しみと少しの悪戯心を持って「マンミ」と呼び捨てていた。カ…
<8/25の続き> 4ストローク単気筒、250ccのDOHCエンジンが唸りをあげる。「何もそこまで・・・」と思う間もなく、リヤタイヤが砂を蹴り上げて、まっすぐ目の前の斜面に突っ込んでいく。2速全開で斜面を駆け抜けたTT-R250は、フロントタイヤを持ち上げたまま…
「マンミには無理だって!」 渚を走るドライブウェイをはさんで海とは反対側、白砂が一段高く盛り上がって、遠くに松林がのぞいている。ワンボックス車の背をはるかに越えたスロープ、そこを越えてみたいと言い出した。バイクに慣れているならできないことも…
2日掛けて目にする日本海、5月の海は寄せる波も穏やかに広がっていた。 北海道生まれのカノジョは、北の大地が染みついたように大らかで、素直だった。バイクを操るときも、それは変わらなかった。「開けろ!」と言われればスロットルが止まるまで一気に全開…
<8/15の続き> 当世風の音を出さないクルマに混じっては、数台が千鳥に固まって、思い思いのエグゾーストを落としながら走るツーリストたち。ブームに乗ってバイクを手に入れ、北は北海道から西は四国まで一緒に旅した仲間は、すっかり家庭の中に収まって・…
半島をめぐる旅に選んだ宿は、千里浜沿いの松林に、横に長く建っている。まるで林の中に身を隠すように、浴場から食堂、大広間、そしてすべての客室を背の低い二階建てに詰め込み、細いアスファルトに寄り添い建っている。潮風の漂うアスファルトには砂がか…
ビッグテーブルを跳ぶまでは、たしかに後ろを走っていたはずなのに・・・。 着地して荒れたストレートの先、左から右に切り返してシングルジャンプにかかる、そのたもとでコースを離れていく車影。ひとつ下がって左にタイトターンを決めると、CRF250Rがゆる…
好きなときに走り出して、自分がいいと思えばパドックに戻る。クラス分けなんて必要ない。自由なMOTO-X981を走るようになって、真後ろに迫るフルサイズ4ストロークの破裂音にも、ラインを乱すことが少なくなった。それでも今日のカノジョは、ちょいと違う。…
第4コーナーに左足を着けて、今抜けてきたばかりのフープスにアゴを突き出してみる。第2から第3コーナー、その第3コーナーから第4へと、だんだんに落ちていく。この高低差も、ここの楽しいところだ。そして、近づくエキゾーストノートにまた、途切れたはずの…
力いっぱいブレーキレバーを握りしめると、つんのめるようにしてRMも動きを止める。フロントタイヤは、CRFのリヤタイヤに触れている。カメは、両足をバタバタさせながらマシンを後ろに引いていき、ウサギは天を仰いでから、その長い腕をキックペダルに伸ばす…
<8/6の続き> トルクに勝る4ストローク250ccが、スルスルと坂を上り、頂点を越えていく。その後から、細いトルクをエンジン回転で満たすようにしてRMが、波打つ斜面を乱暴に駆け上がる。真ん中より少し右にマシンを振って一気に第2コーナーのクリッピングへ…
最終コーナーから立ち上がるCRF250Rが、コースインを待つRM85Lに気づいて、少しだけスロットルを戻した。そして、視線をこちらに向けたまま、目の前をゆっくり過ぎていく。ヘルメットを傾げるようにして視線を交わしスロットルを煽ると、色の付いたゴーグル…
いつもなら譲ってしまうのに、今日はどうかしている。そしてそのまま、右手がしびれるまで4ストロークのフルサイズマシンを引き連れ走り続けた。ようやく午後に終止符を打ち、最終コーナーをゆっくり回っていくと、濃い林の影にyuutaくんが、思いきりスロッ…
RM-Z250のエンジンストップでバトルも途切れて、ゆるんだ口元のまま、パドックに帰っていく。今日は日除けじゃなくて、時折落ちてくる通り雨を避けるためのサンシェードに、いくつもの笑い声が満ちていく。少しだけ湿った、夏の涼風に気を良くして、すぐに愛…
幅の広いハンドルバーが、ギャップを拾うたびに大きく左右に振られる。そして、グリップに伸ばした短い両腕が、さらにその振幅を増幅させる。 730mmのハンドルバーと85ccのマシンサイズに慣れたカラダに、フルサイズのYZ125は、いかにも大柄だ。コースインし…
ノービスクラスとは言え、MCFAJのシリーズチャンピオンを手にしただけのことはある。 数ヶ月のブランクも、今のカレには当たり前の時間らしい。直線がやってくるたびにフロントタイヤをちらつかせては、コーナーの入り口で、楽しそうに後ろへ下がっていく。…
<7/29の続き> 砂利を蹴り、乾いたエキゾーストノートを蒼白く残して、RMが伸びやかに 加速していく。薄い混合気に気を良くした2ストロークエンジンは、捻る右手に過敏に応え、気の抜けた上半身が真後ろに持っていかれる。そして第1コーナーへと続く木立の…
<7/27の続き> こんなときは、ハリイチを変えるのが手っ取り早い。 すぐにパドックに戻って、RMをフレームの下からレーシングスタンドで持ち上げる。かがみ込んでPWKのボディに飛び散った泥をていねいにウェスでふき取り、前後のバンドをプラスドライバーで…
<7/25の続き> MOTO-X981は、パドックからコースへのアプローチに勾配がつけられている。その見た目よりもきつい坂の砂利道を、RMがあえぐようにして上っていく。暖まりきっていないエンジン、でも、いつもはこんな感じじゃない。ただ1台、コースを走るYZ12…
すぐに訪れた軽バンには、YZ125が窮屈にねじ込んである。このところ週末、それも土曜も日曜日もほとんどすべてここにやってくる、ストイックなシャイボーイ。ボーイと言うには年がいっているけれど、とにかくカレは一度コースに出たら、なかなか戻ってこない…
一晩中回り続けた扇風機の、冷たい風で目が覚めた。カーテンを開け放したままの窓に、夜明けを迎えた空が一面の鉛色になって映っている。昨日までの真夏は雲の向こう、涼しい朝にかえって調子が狂ってしまう。それでも手早く支度をすませて、荷物を積み込み…
シートの後ろに腰を「く」の字に引いて、ステップに立ち上がったまま、最後の右カーブへとYZ125を走らせる。アウトバンクいっぱいに車体を翻し、左指をクラッチレバーにかけてリヤタイヤを操り、林の先へと落ちていく。途切れ途切れに届く排気音が荒れた斜面…